資生堂の日用品事業部門の売却の意味と小売業界における顧客との関係性とは
2021年1月、資生堂はヘアケアブランド「TSUBAKI」や「uno」などを含む、日用品(パーソナルケア)事業を、欧州系大手外資系投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズに1600億円で売却すると発表されました。
より詳細に言えば、2021年上半期に全額出資で設立する新会社に国内外の事業を移管した上で、その新会社をCVC傘下のOriental Beauty Holding(略称 “OBH”)に譲渡。その後、資生堂がOBHの親会社の株式35%を取得して合弁事業化する、とのことです。
ですが、やはり注目すべきは、資生堂というグローバル企業が、売上高営業利益率5~10%を占める日用品部門の有名ブランド複数を売却する、という経営判断ではないでしょうか。
そこで、資生堂が日用品部門を売却するに至った経緯を紐解き、今後の小売業界の在り方について見ていきます。
資生堂が日用品事業を売却する理由
2021年2月3日付で資生堂HPに掲載されている、日用品事業売却についての代表取締役社長 兼 CEOの魚谷雅彦氏のコメントには、以下のことが書かれています。
“ 今回の目的は、ビューティーコンサルタントによるカウンセリングを伴う化粧品事業とは全く異なる、いわゆるマスマーケティングという事業構造を持つパーソナルケア事業を、資生堂の枠組みから分離・独立させ、新しい組織を合弁事業化しさらに発展させることです。
(略)
現在当社は、日本はもちろん、グローバルでの成長を目指し「プレステージファースト戦略」を掲げています。2015年以来全社売り上げの70%以上を占める中高価格帯の化粧品事業に優先順位を置くこの戦略で、より大きく事業を成長させ、創業以来初めて売上1兆円、営業利益1千億円を超える業績を達成しました。まさに、この戦略を着実に実行することが、150年近く続いてきた化粧品会社資生堂の、生き残りをかけた次の150年に向かって発展するための基盤であると考えています。
(略)
本事業を取り巻く環境は、グローバル企業との競争でさらに厳しくなっています。この状況下では、パーソナルケア事業は当社内での優先順位を高めることができず、限られた経営資源の中残念ながら商品開発、広告宣伝などに十分な投資ができないという現実があります。”
以上から読み解けるのは、
①不特定多数の消費者ニーズに応えるための、バラエティショップやドラッグストア向け日用品事業は、低価格でありながらマスマーケティング施策(TVCMなど)を打ち出す必要があり、結果的に薄利多売の悪循環を繰り返す
②他社から数多くの競合ブランドが生まれることで、日用品事業はすでにレッドオーシャンになっているため、今以上の事業発展が見込めない
という点です。
また、日用品事業とは反対に、「中高価格帯(プレステージ)の化粧品事業」の成長率は著しく、今後の「発展するための基盤」と目されているほどに、期待値が高い点も注目されます。
つまり、以上の資生堂の経営判断には、「薄利多売」の時代から「顧客1人ひとりと向き合うパーソナライズ思考」の時代への転換がベースになっていると考えられるのです。
今後の小売業界における顧客との関係性とは
以上のような事業転換は、「顧客中心」のマーケティングの重要性を示唆しています。
顧客がいかに満足できる体験をブランドや商品を通して得ることができるかどうかが、長期的に見て売上を大きく左右する要因となるのです。
最近注目されている“D2C”(ダイレクト トゥ コンシューマー)に代表されるように、これからの時代は企業やブランドが直接的に顧客と交わり、商品のみならずそのやり取りや世界観までも共有し、共感してもらうことで密な関係性を築くことが、今後の小売業界における基盤となることは必至です。
当然ながらECにおいても、収集した顧客データを活かし、的確にパーソナライズした体験を顧客に直接届けることで、数年後、数十年後の関係性が大きく変わってきます。資生堂の今回の経営判断を参考に、自社事業の問題点を今一度洗い出してみてはいかがでしょうか。
キーワード
登録されたキーワードはありません